K.I.S.Sは、アメリカの有名なビジネススラングのひとつで、Keep It Simple, Stupidの頭文字をとったものです。英語版Wikipediaによると、その起源は米陸軍内で流行っていたものとされていますが、一般的にこの言葉は、ロッキード・マーチン社の設計者ケリー・ジョンソンが言ったものとして定着しています。
双胴戦闘機P-38を設計した人物としても有名なケリー・ジョンソンは、ロッキード・マーチン社では伝説的な人物で、部下が気に入らないことを言えばその場でクビを宣告し、その仕事が気に入らなければ黙って尻を蹴り上げるなどと、大変な激情家であったようです。
また実家がレンガ工場で、その手伝いを幼少のころからやっていたことから腕っ節はすごぶる強く、社内でアームレスリング無敗を誇っていたそうです。
設計者としては本当に天才肌の人だったようで、それを示すこんなエピソードがあります。
ある設計者が、設計中だった航空機の機首形状の空気抵抗最適化で何日にもわたって頭を悩ませていたことがあったそうです。そこにたまたま通りかかったケリー・ジョンソンが、その設計図面を少し眺めてから、おもむろに鉛筆を取り機首の形状を書き加え、「この通りにしてみろ」といったそうです。改めて書き加えられた機首形状で空気抵抗を再計算してみたところ、それはまったく最適化された形状だったと。その設計者が数日悩んでたどり着けなかった正答に、ケリー・ジョンソンは少し眺めただけで到達しまったのです。
ああ、ケリー・ジョンソンの人となりが面白すぎて、ついつい話がそれてしまいました。
で、改めてKeep It Simple, Stupidなのですが、これを直訳するならば「単純にやっとけボケ」で、上品に訳すならば「つねに簡素を心がけよ」ということになるでしょう。
航空機設計者であったケリー・ジョンソンは、この言葉を飛行機の設計においての定石として使っているのですが、現在この言葉はそれ以外さまざまな業種においても適用されており、ソフトウェア開発においても例外ではありません。
考え方のひとつとして、簡素に設計されたシステムは複雑なものと比べて問題を起こしにくく、また問題が起こった際にも解明にいたる時間が少なくてすむというものです。
このK.I.S.Sについての突っ込んだ話は、ほかに詳しく書かれているサイトなどがありますのでそちらに譲るとして、私がこのK.I.S.Sを聞くとき思い出すのは、ケリー・ジョンソンと並ぶ著名な航空機設計者エド・ハイネマンが残した言葉です。いわく―
「小型軽量を追及すれば、おのずと高性能が得られる」
この言葉にK.I.S.Sほどの汎用性はありませんが、この定石もソフトウェア開発に通ずるものがあるのではないかと思います。飛行機とソフトウェア開発、かけ離れているようで求められるものは近いのかなと思った次第です。(社員R)