さて、アップルの世界が変わっちゃう発表から一週間たちました昨今、皆様いかがお過ごしでしょうか?
今日は私が愛読しているTwitterアカウントの話をしたいと思います。
ニンジャスレイヤーは、B・ボンド&F・モーゼズによる、グラフィックノベルズです。そのニンジャスレイヤーを私家翻訳して公開しているtwitterアカウントが@NJSLYR(https://twitter.com/NJSLYR)です。
この作品、ショー・コスギ全盛期のニンジャムービー+サイバーパンクといった内容で、アメリカ人による勘違い日本描写が面白く、それによって耳目を集めている次第です。
ショー・コスギ全盛期のニンジャムービーというと、金閣寺をバックにTOKYOとテロップの入ったりするアレなので、この作品においてもニンジャ同士が戦う前には、礼儀正しく挨拶をします。
人影はニンジャスレイヤーに向かってオジギをした。「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。ダークニンジャです」「ドーモ。ダークニンジャ=サン。ニンジャスレイヤーです」オジギ終了から0.02秒。ニンジャスレイヤーは跳んだ。後悔は死んでからすればよい。今は目の前の敵を倒さねばならない!
また主人公ニンジャスレイヤーが、跳躍するときなどの掛け声は「Wasshoi!」です。
「Wasshoi!!」禍々しくも躍動的な掛け声が響き渡ったかと思うと、ジンジャ・カテドラルの天井が崩れ落ちた。そして轟々たる重金属酸性雨とともに、赤黒いニンジャ装束に身を包んだニンジャスレイヤーが、この死闘に乱入してきたのである。
そして、ニンジャスレイヤーと対する悪のマスターニンジャ、ソウカイ・シンジケートの長にして、ネコソギ・ファンド社長、ラオモト・カンのいでたちは、以下のごとくです。
ラオモトは長さ十メートルもある高級一枚板のデスクに座り、葉巻をふかす。今日の彼の装束は戦闘服ではない。ヨロシ=サン製薬との商談があるからだ。ビジネス用のアルマーニスーツ上下に、鎖頭巾、黄金メンポという出で立ちである。それでも、全身から殺気がみなぎっていた。
かような勘違い日本を舞台としたニンジャスレイヤーですが、この私家翻訳はエピソードをランダムにカットアップするという形式をとっており、「開いたときに読む」というTwitterのシステムに高い親和性を示しています。別に最初から全部読まなくとも、twitterを開いたときにやっているエピソードを読めばいいということですね。このあたりTwitter向け読み物のフォーマットとしては、かなりよくできているのではないかと思います。
@NJSLYRでは、作品の翻訳のほか、原作者のインタビュー記事の翻訳も紹介されます。
「サイタマっていうのは、東京湾を埋め立てて作られた巨大な人工の陸地なんだよ。すでに今この時代においても、かの土地が日本の経済の中心となりつつある。そのリアリティを踏まえていかなければいけないと思ったのさ。」
ーーエピソードに途中から触れる読者には、例の『ニンジャソウル』の概念が把握しづらい事もあると思います。この場で説明してみては? 「それはとてもいい提案だね。まず、古事記に書かれた平安時代が始まりだ。あの時代を支配していたのがニンジャ達だ。しかし彼らの支配にも終わりは訪れる」
ーー最後に、注目を集めている『Wasshoi!』という掛け声について。 「あの言葉は日本人が大きな困難に立ち向かう際に自らを鼓舞する言葉なんだ。一時期流行ったどこかのドラマみたいに『ヤッタ!』なんて言っている日本人はいないよ。ワッショイを是非とも知ってほしいね。」
アメリカ人が聞き違えたような不思議日本語もニンジャスレイヤーの魅力のひとつです。以下に抜粋してみましょう。
電子ゲーム音楽のBEEP音にしか興味を示してこなかったギンイチに、ブッダヘアーDJがスピンするモクギョコアはあまりに先鋭的だ。そのビートにあわせ、ブッダヘアーパンクスやスキンヘッドに「明日も働かない」とタトゥーを入れたパンクス、シシマル・スタイルのパンクスが、てんでに跳ね回る。
「え? いいんですか?」「いいんですよ」「悪いですよ」「いいんですよ」「じゃあ持って帰ります」「ユウジョウ!」「ユウジョウ!」二人はサケに軽く酔いながらも、高度な政治的駆け引きをくり返す。
カナシバリ・ジツは、正確にはフドウカナシバリ・ジツという。フドウとは動かないという意味だ。アイキドーにも似たような技があり、こちらは構えとシャウトで敵を麻痺させるものだが、ビホルダーが使ったそれは、目を合わせるだけで敵の精神を破壊するという、ニンジャならではの技なのであった…。
バチバチというセンコ花火のような火花に照らされ、極太ミンチョ体で「悪い政府だ」「マッポはセプク」「インガオホー」と書かれた反政府団体のネオハイクが浮かび上がる。コンクリートに転がるUNIXや旧型オイランドロイドの残骸やネズミの死体などを踏みながら、男はさらなる暗がりを求めて進む。
「すっごいぜ!すっごい!」笑ながら、ヒョットコはドリルをオトコの眼球にちかづけていく。ナムアミダブツ!だがこの地獄絵図は、ネオサイタマのストリートにおいてはありふれすぎた「チャメシ・インシデント」なのだ!
私、「チャメシ・インシデント」が日常茶飯事をさしていることに気づくのにしばらくかかりました。
勘違い日本描写と不思議日本語が楽しいニンジャスレイヤーなのですが、私はどうもこの面白さを適切に語ることができずにいます。私はどうもこのアメリカ人が描く勘違い日本というものに対する理解度が高すぎて、普通の人がこれをどう感じるかという相対化作業がうまくいかないのです。要するにどっぷりはまりすぎて、面白さをうまく説明できないのですね。
そもそもアメリカンニンジャでサイバーパンクなどというジャンルはマイノリティの中のマイノリティなわけで、それを忘れた熱心な読者たちは、「なぜこんなに面白いのにフォロワー数が400足らずなのかわからない」と日々声を上げているのですが、冷静に考えてみれば当たり前のことなのでした。
とはいえ、全体的に見て圧倒的に完成度の高い作品ですので、どこかの有名人アカで取り上げられれば、一気にフォロワーが増えるんではないかとは思っています。そして、いずれは何らかの形での書籍化はあるのではないかと踏んでいます。
最後に原作についてですが、どうも10年にわたって権利問題でもめていたせいで原作本は遠い昔に絶版となり、米AMAZONで検索してもできません。ああ、なんということでしょう原作本の入手は現在絶望的とのことなのです。それでもひょっとしたらミスカトニック大学の図書館あたりで所蔵してるかもしれないと私の知り合いが言っていましたが本当でしょうか。
(社員R)