メロトロン・レジェンド~チェンバリンとメロトロンの数奇な物語~[DVD]
メロトロンは、1960年代に登場したサンプリングキーボードです。
いやちょっと待って、1960年代にデジタルサンプリング音源なんてないはずなのにどうやって? と詳しい人なら思うことでしょう。メロトロンは、鍵盤ひとつに対して磁気テープがセットされており、鍵盤を押すと8秒間テープが再生されるという仕組みの楽器なのです。
[youtube:https://www.youtube.com/watch?v=eR6D1ZH2CMk]
具体的にはどんな曲に使われているの?と聞かれると、有名所ではビートルズのストロベリーフイールズフォーエバーが挙げられます。またかなり昔になりますが、カルトQという番組で番組出題時に流れていた、ジャーンというジングル音がメロトロンです。ちなみにあれはキング・クリムゾンのエピタフのイントロです。
オケを雇わずとも手軽にストリングスのバッキングを可能とするメロトロンは1960年代後半から1970年台前半にかけて多くのミュージシャンに使用され、特にプログレッシブロックにおいては重用されていました。
その機構ゆえ故障は多く、気象条件に受ける影響はストラディバリウスにも引けを取らず、1トン近くと重く、非常に扱いにくい楽器であったため、この楽器を嫌うキーボーダーも多くいました。イエスのリック・ウェイクマンには、メロトロンを家の庭で焼いたという本当だか嘘だかわからない逸話があります。
一時は脚光を浴びたメロトロンでしたが、和音の奏でられるシンセサイザーの登場、デジタルサンプラーの普及などによって衰退していき、一度は歴史から姿を消すのですが、サンプリングキーボードでありながら楽器としての音色を持っているという特性などに惹かれた一部好事家の活動が実を結び、ついに1999年には新型モデルが発売されるまでとなります。
そんなメロトロンのドキュメンタリーDVDが日本で発売されましたので見てみました。
開発関係者、使用していたミュージシャンなど多くのインタビューから構成されているのですが、中でも面白かったのはメロトロンの発売当初、ミュージシャンの連合が、メロトロンによって自分の職を奪われるのではないかと危機感を持ち、反対運動を起こしたというエピソードです。最初期のサンプリングキーボードは、当時のミュージシャンにとってロボットだったのですね。
メロトロンの音源録音に参加したミュージシャンのインタビューでは、「行ってみたらメトロノームとマイクのみが設置されていて何事かと思った」「単調で難しく辛い仕事だった」というコメントを残していました。なんか聞き覚えのあるコメントだなと思ったら、ボーカロイドの録音に参加した声優が似たようなコメントを残していたのを思い出しました。
個人的に一番面白かったのは、特典映像のイアン・マクドナルドのインタビューです。
このイアン・マクドナルドという人は、オリジナルキング・クリムゾンのメンバーとして、その後のメンバーの引き算により、アルバム「クリムゾン・キングの宮殿」の制作においてもっとも重要なウェイトを占めたと目されている人物で、90年代にはバッケンローダーというセガサターン用ソフトに音楽を提供することで、同ソフトをプログレ好きのゲーム愛好家というマイノリティに購入させるに至らせた大変に罪深い人でもあります。
で、イアン・マクドナルドがインタビューの中で、メロトロンと関係の無い話ではあるのですが、プログレッシブロックの始まりについて語っています。やはりビートルズなんだけど、それはサージェントペパーズではなく、イエスタデイなんだと。
イエスタデイで弦楽四重奏をポップスとして取り入れたとき、あの時にプログレッシブロックは始まったのだということを個人的見解として断った上で語っていました。はーなるほどと手を叩いた次第であります。
以上、70年代ロックに興味のない人にはなんのこっちゃさっぱりな記事を書いてみました。次回は某アニメ作品のEDに登場したハモンドオルガンについて書いてみたいと思います(嘘)
(記:社員R)