2011.05.03
社員R

WORLD WAR Zのこと

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WORLD WAR Z

WORLD WAR Zは世界がゾンビにあふれた世界で、人類がゾンビと戦い勝利を勝ち取るまでを描いた作品です。

形式としては、ゾンビとの戦争に関わった様々な国の様々な立場の人々から聞き取ったインタビューによって構成する体裁をとっています。

インタビューを受ける人物は様々で、最初期のゾンビ感染を発見した医者、セレブの隠れ家のボディガード、ゾンビとの戦争に従軍した兵士など様々です。

作品内のゾンビはロメロの「ゾンビ」に出てくるのと同じゾンビで、動きはのろく、頭を破壊するまで動きつづけます。そして噛まれると感染する。

ほとんどのゾンビ映画では、おそらく人類は滅亡の憂き目に合うのですが、この作品は一時絶滅寸前まで追い詰められた人類が、なんとか押しとどまり世界中でゾンビを駆逐していくさまを描いていきます。

始まりは中国の山奥の村。そこで発見された奇病を中国政府はSARS同様に隠し通します。しかし、その感染はさまざまな経路で世界中に広がっていきます。

世界中がパニックに飲み込まれる中、最初期から対応を行ったのがイスラエル。国境全周を壁で囲みこみ徹底的な隔離政策を取ります。入国資格者はイスラエル人とパレスチナ人のみ。しかして壁の中ではパレスチナ人を受け入れるために集合住宅建設で家を奪われたイスラエル人がそれを不服としテロを起こしていたりします。

そんな中、南アフリカで長年アパルトヘイト政策を支えてきたレデガーという人物が提唱したプランが、脚光を浴びます。要約すると軍は最小限の犠牲で安全地帯まで撤退し戦力を温存し集結せよ。その際に避難する一般市民は、撤退路の途中に残し食料などを十分に補給してとどまらせる。そしてそれをゾンビの生餌とすることで、軍が撤退する時間を稼ぐという、身も蓋もないプランなのでした。

このレデガープランによって各国の軍隊は余力を残し撤退を完了させます。レデガープランには国ごとに特色があり、ロシアなどは感染してゾンビになる前に正常な死を与えればいいと、避難する一般市民の群れに神経ガスを投下したりします。あわわ。

アメリカは東海岸から西に向かってゾンビに追い詰められていくのですが、ロッキー山脈が自然の防壁として作用し、そこでゾンビの進行を食い止めます。その間に西海岸では、ゾンビを迎え撃つための準備を行うのですが、まず資源戦略省なる組織が発足し、残された資源をどう有効に活かしていくかについての全権限を持ちます。人々は、その生産的技能によってランク付けをされ、ブルーカラーは上級、ホワイトカラーは下級に分類されてしまいます。結果、西海岸にごまんといたなんとかエクゼクティブの人たちは全員下級に認定され、職業訓練センターでメキシコ移民のハウスキーパーに家事雑事の教育を受けたりするわけです。

また軍の兵器体系も対ゾンビに一新され、攻撃型航空機はコストパフォーマンスの悪さから全面廃止、銃も連射能力のあるアサルトライフルは無駄打ちが多いから廃止、歩兵銃は連射はきかないが長射程で命中率の高いボルトアクションライフルに更新されます。つまり、相手は動きがのろく、頭をピンポイントで狙う必要があるという対ゾンビ戦闘の要件を満たした結果なのですね。

私が面白いなと思ったエピソードは、西海岸に住む映像作家のものです。彼もなんとかエクゼクティブ同様に、ゾンビ発生後の世界では生産的技能を持たないため役立たずとされてしまうのですが、なんとか自分にできることはないかと考えていました。そんな中、絶望のまま死に至る病の話を耳にします。人間は本当に絶望すると、眠り込んだまま二度と目を覚ます事無くそのまま死んでしまうと。彼等に希望を与えなければなりません、生きるための希望を。

そこで自分の出番だとばかりに彼は、自分の息子を音響兼ADとして従え、ハンディカム片手に各地を飛び回ります。そして大学に立てこもった学生たちがゾンビと戦い勝利するまでをドキュメンタリー映画としてまとめそれを上映することで、上映地域の死亡者数を減らすことに成功します。その後、軍からの協力を取り付けられるようになると多くのフィルムを作ります。

その中の一つが、高出力レーザー兵器の紹介フィルムでした。このフィルムでは高出力レーザーでゾンビを焼き尽くす映像が出てきます。レーザー兵器自体は、コストが合わないため開発中止となるのですが、このフィルムが人々に勇気を与えたというのです。なぜならアメリカ人はテクノロジーに対する崇拝の念を持っているからだ、と。

なるほど確かにアメリカ人というのは、世界の発明品のほとんどはトーマス・エジソンとベンジャミン・フランクリンが作ったと信じてるフシがあります。そこにテクノロジー信仰のようなものがあるという説明は納得のいくものですね。

ここまで紹介したほかにも、ゾンビに感染しても治るという偽薬で一山当てた男の話、一日中ネットだけを見て部屋に引きこもる生活を続けていたら、周りがゾンビだらけになっていた日本のヒッキーの話、宇宙ステーションから地上に情報を届け続けた男の話、などなどバラエティ豊かなエピソードがてんこ盛りで、よくぞここまで考えついたものだと感心します。

一貫しているのは、ゾンビが発生した世界をどれだけリアルに表現できるかというこだわりです。

最後まで楽しく読める作品でありました。

(社員R)

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