ウォルター・シャイデルの「暴力と不平等の人類史」は、今流行りのトップ1%による富の専有、極端な不平等は別に今に始まったことではなく、それこそ旧石器時代からあり、戦争、疫病、体制崩壊、革命の四騎士がなければそれを解消する術がないということを記した著作です。
可能な限りの時代、地域でデータを揃えることで不平等の証拠を並べているのですが、文字による記録がない時代のものでも最新の考古学調査の結果、集落における住民の富の偏在を数字として出しています。そんな事ができるのだなと素直に驚きますが。
不平等の実情を示すには不足と言われるジニ係数ですが、中世あたりでは0.8などというぶっ壊れた数字が各所に残されており、ヴィクトリア朝イギリスの0.48という数字が低いんじゃないかと錯覚してしまいます。
結局、実際の数字を積み上げた上で、不平等解消されるには戦争か疫病か体制崩壊か革命のいずれかが起こらなければ無理という結論に向けて淡々と記されていくのですが、第二次世界大戦前後の日本に関する部分は興味深く読めました。
戦争によって富の偏在が平準化されるのですが、1938年大戦前夜に世界1位のトップ1%による富の専有20%という輝かしい記録を残していたのが、大戦後には地すべりのように滑降していきます。以下本文引用
かつて日本は地球上で最も不平等な国のひとつだった。1938年には、この国の上位1%が、税や社会保障費などを差し引かれる前の報告所得全体の19.9%を手にしていた。その後7年のうちに、1%のシェアは2/3も減少して、6.4%にまで低下した。この損失の半分以上を被ったのが、上位1%のなかでも最も裕福な1/10の層だった。この期間に彼らの所得シェアは9.2%から1.9%へと、ほぼ4/5も後退してしまったのである。
下記のグラフは こちらのサイトから作成したものですが、これだと1938年の日本のトップ1%が22.3%になっています。最新の情報が反映されているのかもしれません。
71-74にかけて数字が跳ね上がってるので何かと思ったら、この時期ニクソンショックと石油ショックがあるんですね。
GHQの占領政策の柱の一つに農地改革があるのですが、「日本の軍部は貧しい農民に、海外進出だけが貧困から抜け出す唯一の道であると思い込ませていた」という調査結果があり、海外拡張主義から脱却させるために急務と考えていたというのを読んでなるほどと思いました。
物理で700ページ超と分厚い本ですので、まだ完読できていませんが楽しく読み進めています。
(記: 社員R)