サマンサ・ミルズのラビットテストは2022年に発表され、ヒューゴー、ネビュラ、ローカスの三冠に加えて、スタージョン記念賞も受賞した短編小説です。作者はこの作品が一作目。
妊娠中絶を巡る女性の権利のアメリカ国内の現状について、怒りを告発するような内容で大きな話題を呼びました。
まずタイトルのラビットテストが世界最初の妊娠検査法で、ウサギの血管に女性の尿を注入しその結果で妊娠の有無がわかるというもので、こうした妊娠検査、妊娠中絶に関するトリビアが場面の間に挿話されています。
原文はこちらで読めます。
https://www.uncannymagazine.com/article/rabbit-test/
また邦訳は、創元社から発行されている紙魚の手帖Vol.15に掲載されました。
この作中の挿話で、多くの州が妊娠中絶を禁止していた60年代末のアメリカで妊娠中絶の手助けをしていた地下組織ジェーンについての言及があり興味を覚えたのですが、タイミングよくそれを題材にした「コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話」という映画が3/26から公開されていたので観てきました。
舞台は1968年シカゴ、主人公は弁護士の妻で一児の母、黒髪なのに見栄えを良くするため金髪に染めて夫を立てて家庭を守る、60年代アメリカの標準的といえる保守的な女性です。
妊娠中だった彼女は妊娠が原因で心臓の病気が悪化します。主治医の診断は中絶すること、そのまま出産したら50%の確率で命を落とすと告げられます。当然中絶手術を依頼するのですが、当時のシカゴは妊娠中絶を州法で禁止していたため、ことごとく中絶を却下されます。
困り果てた彼女が行き着いたのが、スラム街の柱にあった「中絶の相談はジェーンへ電話を」という張り紙。
ここで彼女は非合法な妊娠中絶手術を受け一命をとりとめます。この地下組織「ジェーン」の元締めを演じてるのがシガニー・ウィーバーで鋼鉄の意思の女を好演していました。
ジェーンの組織にはシガニー・ウィーバー以下様々なメンバーが集まっています。組織がブラックパンサー党に協調しないことに不満を漏らす黒人女性グウェン、ただ金のためだけに中絶手術をおこなう闇医者ディーン(マッシュルームカット) 中でも目を引くのがシスター姿の老女です。カトリックなわけですから妊娠中絶には絶対反対の立場のはずで、いったいどういう経緯で組織に参加したのか劇中では語られることがなく想像が膨らみます。
物語はシガニー・ウィーバーとその仲間たちが裁判所から勝訴を勝ち取った場面で終わります。
これはたぶん現実で1973年に初めて妊娠中絶禁止の法律をひっくり返したロー対ウェイド判決を表しているのですが、現実でシガニー・ウィーバーの役目を果たした女性ノーマ・マコービーは当時26歳でした。つまり脚色なのですが、これは御年74のシガニー・ウィーバーが演じて正解だった思いました。また現実のジェーンの創始者ヘザー・ブースもまた当時大学生でした。
この映画のアメリカでの公開年は2022年、日本では馴染みのないテーマであることもあり劇場公開は難しかったのだと思いますけど、配給にこぎつけてくれたプレシディオに感謝です。
(記:社員R)