人は会話の中で、相手が話し終わってから平均してわずか0.2秒ほどでレスポンスを返しているそうです。
人間の脳は20W程度しか消費してないのに、LLMに負けない速さで相手の話を理解し、次に何を返すかを決め、実際に言葉にしていると考えると、なかなかすごいことだと思います。
『会話の0.2秒を言語学する』は、人がなぜこんなに素早く会話できるのかという話をはじめ、さまざまな言語学の話を紹介している本です。
その中に、「言われてみれば確かにそうなのに、当たり前すぎて今まで気がつかなかった」と思った話があったので紹介します。
私たちは会話の中で「事実」を話しているつもりでいますが、実際には、事実そのものを話していることって意外と少ないそうです。
事実そのものとは、例えば、
といった、誰が聞いても大きく違った解釈が生まれにくい情報のことです。
では、実際の会話はどんな感じかというと、例えば、
A:コーヒー飲む?
B:明日、出張で朝が早いんだよね
といったようなものです。
ここでは「コーヒー飲む?」というクローズドクエスチョン(Yes / Noで答えられる質問)に対して、BさんはYesともNoとも答えていません。
それでも、多くの人はこれを「No」という意味だと理解できます。
これは、「コーヒーを飲むと夜眠れなくなることがある」といった共通の知識や認識をもとに、Bさんの意図を解釈しているからです。
A:この部屋、ちょっと寒くない?
B:窓閉めるね。
これも、Aさんは単に室温について伝えたかったわけではなく、「寒いからなんとかしたい」という意図を伝えたくて発話しています。
それを、同じ部屋にいて状況を理解しているBさんが意図を読み取って「窓を閉める」という行動で返しています。

A:あー、お腹すいた。
B:ダイエット何日目だっけ?結構頑張ってるよね。
という会話も、Bさんが「Aさんはダイエット中」という背景を知っているからこそ成り立つ会話です。
仮にBさんがそのことを知らず、昼休み明けにこの言葉を聞いたとしたら、
B:お昼食べてないの?
と返していたかもしれません。
もしAさんが「Bさんも自分がダイエット中だって知っているはず」と思い込んでいたら、
A:(食べられないの知ってるくせに。Bさんって意地悪)
と、勝手に不機嫌になってしまうという悲劇的なことだって起こりえます。
このように、私たちが普段している会話では、案外「伝えたい情報そのもの」を言葉にしていません。
無意識のうちに、相手が背景や状況を知っていることを前提にして、相手の解釈に依存した会話をしてしまっています。
そして、こうした会話を成り立たせるためには、コンテキスト(文脈・背景・状況)の共有がとても重要になってくるわけです。
このコンテキストは、同じ空間や時間を共有していれば意識せずとも少しずつ蓄積されていくんだと思います。
一方で、リモートワークではこうしたコンテキストの共有が進みにくいので、これがリモートワークの一つの弊害になってるのかなと思いながら読んでました。
この本にはほかにも、
といった、普段考えたことのなかった会話や言葉の話がたくさん出てきます。
少し難しい部分もあるのですが、Audibleでも聴けるので、言葉やコミュニケーションに興味がある人にはおすすめです。
Jackal