2009.12.15
社員R

銃・病原菌・鉄のこと

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銃・病原菌・鉄

今回は何も思いつかなかったので、前に読んだ本の話をしようと思います。

「銃・病原菌・鉄」は、ユーラシア大陸とアメリカ大陸では文明の発展に大きな格差が生じたけれどそれってなぜなの?という疑問に対して、明快に説明していく本で、歴史分野では定番本となっています。出版されたのが1998年と一昔前で、有名な本でもあるので、読んだ方もいらっしゃるかと思います。

結論を一行で書くとそれは、ユーラシア大陸は横に長いけどアメリカ大陸は縦に長いから、ということになります。

  • まず文明が発展するには研究をおこなう人員を養うための余剰食料生産力が必須であり、そのためには農耕技術の確立が必須である。したがって農耕が早く始まった地域は、文明の発展にアドバンテージを持つことができる。
  • 農耕の他地域への伝播は同じ気候であれば問題がないが、極端に緯度が異なるなどすると伝播に支障をきたす。横に長いユーラシア大陸では農耕の伝播は比較的速い速度でおこなわれたが、縦に長いアメリカ大陸ではなかなかそうはいかなかった。
  • また緯度の違いの他にも地理条件も阻害要因となりうる。アメリカ大陸中央部の山脈、アフリカのサハラ砂漠など。
  • また最近の研究により、農耕栽培化が可能な作物の野生種の数は限られており、ユーラシア大陸に属する地域では多数存在するが、アメリカ大陸におけるそれは数種類に過ぎない。

ああ、なんか長くなってきました。

とにかく以上のように、なぜこれがこうなってこうなったのかを順を追って説明して行く、非常にわかりやすい本なのですね。

そして、すべては環境要因によるものであり、文明発展の格差に人種による優劣はなかったのだという大テーマを提示するのです。

各章の題名もまたわかりやすく、9章には「なぜシマウマは家畜にならなかったのか」という題がつけられています。

大型の家畜を使役することもまた文明発展における大きなアドバンテージなのですが、ヨーロッパでは普通に馬を使役していたのにアフリカ大陸の人たちは、なんで同じ馬であるシマウマを家畜にできなかったのかという疑問についてこの章では説明しているのです。

すなわち、動物が家畜になるにはいくつか条件があり、

  • 餌代がペイするか?→肉食動物の場合、その名の通り、肉しか食べませんので餌にかかるコストが膨大となります。使役した結果、赤字になるなら家畜として使役する理由がありません。
  • 成長速度は?→一人前になるまでの時間が長いとそれだけコストが掛かります。
  • 人間監視の中、繁殖が出来るか?→この世には誰もいないところでしか繁殖をしない動物が存在します。こういった動物は人間のコントロール下で繁殖ができません
  • 囲いの中にいられるか?→人間の作った柵の囲いの中に入れると、パニックを起こし死ぬまで柵への激突を続ける動物がいます。鹿などが該当します。
  • 序列を守れるか?→社会的動物か否か。つまり人間を主人として認識することが出来るのかです。できない動物は使役が困難です。
  • 気性は?→気性が激しく、人に危害を与えるような動物は家畜化が困難です。シマウマはこの条件に該当するため家畜には向きません。

という具合にわかりやすく説明しています。

ちなみに豹やライオンは古代の王侯貴族が持ち前の財力によって餌の問題をクリアし、なんとか家畜化しようと試みてきましたが、結局、序列と気性の問題をクリアするに至りませんでした。同じネコ科の動物である猫もまた上記条件を満たさない家畜に不向きな動物なのですが、小型であるゆえ肉食性であっても餌の問題は小さく、それより鼠を捕獲するというメリットから益獣として使役されてきた歴史があります。しかし数千年を経た現代においても、序列の問題はクリア出来ていませんよねえ。基本、猫は人間を主人とみなしませんから。

ただ、時々妙な記述もあり、たとえばキーボードのQWERTY配列普及の間違った説についてそのまま引用しています。昔の機械式タイプライターはタイピングスピードをあげ過ぎるとタイプバーが絡んでしまうことがあった。これを避けるため続けて打たれることの多いキーをわざと離して配置させることで、タイピングスピードを遅らせるようにした、という説なのですが、こんなものは最も使う部類である組み合わせの「ER」「RE」「ED」が隣接していますね、で終了です。

また我が国に対しても「日本人が今も漢字を使い続けているのはステータスのため」と断言していますが、そんなことは全然ありませんね。

とは言いながら、やはり総じて非常にわかりやすく書かれた良書であり、歴史に興味のある人ならば楽しく読める本だと思います。(社員R)

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