2018.03.23
Tsuru

談合って犯罪なの?

談合は犯罪?

リニア中央新幹線の建設を巡って、大手ゼネコンの担当者が逮捕されたというニュースが日本中を駆け巡った。
でも発注者であるJR東海は民間企業なので、リニア建設は公共工事には該当せず、どこにいくらで発注しようが勝手じゃないの?という疑問が浮かんだ。
ヤフーニュースの読者のコメントには談合を肯定的にとらえるものも結構あったし、大手新聞社でさえ逮捕に疑問を呈するような論調の記事も一部に見られた。

限られた一握りの大手ゼネコンにしかできない難工事ゆえに価格競争にはなじまないのではないか、というのが大まかな主張のようだった。

それに私が旅行会社に勤めていたときは、同僚がライバル企業の担当者と談合して、高い価格で社員旅行の受注を分け合っているのを何度か目撃した。

もしかしてこれって、逮捕される危険のある行為だったのだろうか?

民間企業なら担当者個人への接待や謝礼としてのリベートは犯罪にはならないのに、ましてや会社の売上のためにする談合は一体どんな罪に該当するのだろうか。(※会社の内規による懲戒処分は別です。また業者と共謀して水増し請求して資金を個人に還流させたような場合は詐欺罪や背任罪に問われることがありますよ)
ということで、ちょっと調べてみた。

談合は何の法律に違反する恐れがあるのか?

逮捕の理由は、独占禁止法の不当な取引制限違反の疑いらしい。
独占禁止法にはいくつか禁止行為の類型が規定されているがその中の一つのようだ。
まずは「不当な取引制限」に関する条文を確認してみよう。

この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう

談合が不当な取引制限に該当するとして罪に問われるにはいくつか要件があるようだ。

まず、「事業者が」「他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ」てはいけないということだ。今回の件では、このような行為があった疑いがあるということだろう。ここは検察が証拠を積み上げて立証していくポイントになると思われる。
もし単純にこの行為があっただけで罰せられるなら、社員旅行で談合していた同僚は逮捕される恐れがあったということだ。

ただ、次にその行為が「公共の利益に反して」いて、さらに「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」という要件を満たさないといけないようだ。
でも「公共の利益」といわれても漠然としている。それに一定分野の競争を実質的に制限というのもなんだか程度が曖昧だ。
調べてみたところ、これには以下のような判例があるようだ。

「競争の実質的制限」とは、「競争自体が減少して、特定の事業者または事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる形態が現われているか、または少くとも現われようとする程度に至っている状態」(東宝・スバル事件・東京高等裁判所 昭和26年9月19日判決 ・高民集4巻14号497頁)

民間企業の談合が罪に問われるかもしれない基準

総合すると談合が罪に問われるのは、その談合が市場を支配するに至っているか否かが基準になるようだ。確かに少数の事業者に市場を支配されると、多くの消費者が高いものを買わざるを得なくなるので、それは同時に公共の利益にも反するでしょう、というロジックのようだ。
リニアに関しては、大手ゼネコン4社がリニア建設という分野で競争を回避して価格を吊り上げ、その価格がJR東海を通して広く一般の利用者に運賃となって跳ね返るので公共の利益にも反するでしょう、ということなのだろうか。

いずれにしても、罪に問われるかは市場を支配しているか否かが基準なので、個別の案件で談合する程度では市場を支配しているとは言えず、旅行会社で特定顧客の案件で談合していた同僚も逮捕されることはなかった、ということになるのだろう。

独占禁止法で談合を禁止して何を守りたいのか

では、最後に独占禁止法の保護法益は何なのか確認してみよう。
保護法益とは法律で特定の行為を規制することで守ろうとしている利益だ。ある行為を法律で禁止するからには必ずそれと引き換えに守りたいものがある。日本である一定水準以上の談合を禁止するのは何を守るためだろうか。
第1条を見てみよう。

この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。

どうやら保護法益は「公正且つ自由な競争」ということになるようだ。
お金をめぐる競争がないと誰も商品やサービスを開発したりはしないだろう。技術を高めようという努力もしなくなる。

競争が経済を発展させる。

安くて良いものを生み出すために誰もが競争する、というのは全ての人にとってメリットのあることなのでこのルールを守りましょう、と我が国では考えられているということだ。
今回の件は、例え難工事であろうが、技術的に高度であろうが、競争をしなくてよい理由にはならない、資本主義の基本理念に反する行為なので許さない、ということなのだろう。

結論、談合は基本ダメ。みんな競争しましょう。

Tsuru

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